「しかし何が悲しい言うて、マラソンの大会が開かれへんの、こんな辛いことないな」
「あんたマラソンやりはるの?」
「いや、まあここ何年間かやっとるだけやけどな」
「そんでもすごいわ。で、どんくらいで走りはんの?」
「ゆうほどのもんやないわ。ただ気持ちええから走っとるだけ」
「せやけど大会に出るんやろ」
「せやせや。それが言いたかったんや。例えばな。山形にさくらんぼ大会ってのがあるんや。これにな、会社の仲間と何人かで一緒に出るんや。こんな楽しいことあらへんで」
「ふううんん。マラソンって走ってていつが一番楽しいんや?」
「最初から最後までや。走る前の緊張感は並大抵のものやあらへん。いつもな、記録が狙えそうな緊張感があふれ出てくるんや」
「何となくわかる気がするわ」
「それでな、走り始めればそれがピークに達するんや」
「そうやろうな」
「しかしな、ほんまのこと言うと、普通に楽しいのってそこだけや。あとはただひたすら苦しいだけ。でもな、沿道の応援がすごいんや。文字通り老若男女が列をなしてハイタッチしてくれるんや。これは気持ちええで。最高や」
「オリンピックの選手の応援みたいやな。ハイタッチはせえへんけど」
「まあしかしそれ以外はひたすら苦しいだけや。沿道の応援もな、最後のほうに『頑張れー!』って言われると正直きついわ。でも頑張っちゃうけどな」
「そんだけやったら、最後の達成感はまあすごいやろ」
「そのために走るようなもんやからな」
「他は何がええの?」
「俺は基本的にはマラソンって孤独な走りやと思うとるけど、さくらんぼだけはな、会社の仲間と一緒やろ。これが抜群にウレシイ。前の日に東京から車仕立ててもらって山形行ってな、一泊するのがご褒美や。小学生の修学旅行やな」
「枕投げしたりしてな」
「まあさすがにそれはないけど。またな、終わった帰りに近くの温泉に立ち寄ってな、お湯で筋肉をしっかりほぐすんや。これが人生で一番の入浴やで。冷たいそばでしめてな」
「うわっ、そば食べたくなったわ」
「こんな楽しみを、今年は奪われたんやで。来年だってわからへん」
「来年もしやったら、ぜひ連れてってや」
「モチや。まあともかく、この場をお借りして。ほんま、何回か付き合ってくれたみなさん、おおきにやで。心の底から。暑いのにも気いつけて、コロナになんか負けへんようにな!!」
「しかしこのハナシ、出だしが漫才みたいやったけど、とうとう最後までオチも何にもなしやな!ちゃんちゃん!!」
追記;
「走るのな、中学生の頃は得意やったけど、まあずっとそれからが空白や。これだって回帰や。一応ゆうとかんと!!」
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